帰宅後Tea Time

「Holy Shit !!」

 

 


カバンを放り出しソファに身を投げる。
どうやらジョースター家の血が
俺にも流れていたらしい。
迸るのは波紋ではなく波乱ばかりだが。

 

 

 

凡ミス連打。ここまで繋がる打線なら
ワールドシリーズ進出だって夢じゃない。
トロフィー替わりに降格と減俸ってとこか。

 

 

 

器用貧乏と揶揄されながらも
何事もソツなくこなせる不動の四番という
二つ名を欲しいままにしていた
この俺が見る影もない。随分と落ちぶれたもんだ。

 

 

 

上司からの叱責も尤もだ。
返す言葉も言い訳もなかった。
最近は全く仕事に身が入らない。
思い悩み眠れぬ日々が続いたせいか、
退職の2文字がチラついているせいなのかは
定かではないが。

 

 

 


心身ともに疲労困憊したこんな夜は
ついつい優しさを求めてしまう。
頭痛解消を兼ねてバファリンでも飲むか、
いや、ダメだ、意味が無い。
彼女が与えてくれる優しさは半分だけ。
心からのそれではない。

 

 

 

1/3の純情なら話は別だが
1/2の優しさなんて欲しくはない。
中途半端な優しさは却って人を傷つけるだけだ。
用法と用量は適切に。

 

 

 


仰け反る様にソファにもたれかかり
ペットボトルの某麦茶で渇きを癒しながら呟く。

 

「お前だけだよ、優しくしてくれるのは。」

 

麦茶、いや麦ちゃんは答える。

 

「あたいはロックだからね。
 ロックてのは誰にでも優しいものさ。
 別にあんただけにじゃないんだからね。」

 

これが俗に言うツンデレってやつか。
幻聴に対し変なところで感心しながら、ふと思う。

 

「そうか麦茶はRockなのか。
 ・・・ならば他のお茶はどんな調べを奏でる?」

 

 

ソファから飛び起き、近所のコンビニへと急ぐ。
棚にあるペットボトルを片っ端からカゴの中へ。


「君たちはどんな旋律を聞かせてくれるんだ?」

 

 

 


アリス不在のマッド・ティーパーティーの始まりだ。

 

 

 


<おーいお茶>・・・Punk
甘味、渋み、清涼感。
どれをとってもシンプルにして直球。
商品名に呼びかけを使うなど、
古い慣習に囚われない斬新な発想。
これをPunkと呼ばずして何がPunkであろうか?
決してOi Punkから連想したわけではない、多分。

 

 

十六茶>・・・Jazz
多彩な原料から雑味感を想像してしまうが
一口飲めば間違った先入観であることがわかる。
複雑な味のバランスが見事に調和している。
かといって個々の個性が消滅した訳ではなく
一体感の中で主張し続けあっている。
Big Bandスタイルではなくトリオ。
ピアノ、ベース、ドラムの。

 

 


生茶>・・・Celtic
ずば抜けた清涼感。ほのかに香る甘味。
5月の風が身体の中を吹き抜けていく感じ。
そんな清廉さは月夜もイメージさせる。
音もない闇の中に銀色の月が灯る。
いつしか神秘的なハープの音色が聞こえてくる。

 

 

 

爽健美茶>・・・H.Metal
素材の旨味が津波の様に押し寄せる。
圧倒的コンビネーション。
その名に恥じぬ疾走感溢れる爽やかな風味。
本上まなみの美しい横顔。
メタル以外の答えは考えられない。
複雑かつメロディアスなリフ、
これしかないという唯一無二の泣きメロ。
ヴォリュームはもちろんMAXで。

 

 


綾鷹>・・・AOR
茶葉そのものを摂取しているかのような飲みごたえ。
苦々しさと若々しさが同居した飲み味。
若気の至り、苦々しくも忘れられない記憶が蘇る。
そんな時代を経てきたからこそある今。
振り返ると切なさと懐かしさが美しい旋律を奏でる。

 

 

 

伊右衛門>・・・Blues
渋みとは別の粉味と呼ぶべき飲み味が楽しめる。
味のバランスは王道に近いが余韻の残り方が
他の追随を許さない。
渋みの余韻は還らぬ過去への追憶を彷彿とさせる。
人生には悲しみがあるからこそ輝く瞬間が愛おしい。
イメージとしてはMuddy Waters

 

 

 

<烏龍茶>・・・Funk
これは永積さんが悪いよ。
もうあの曲の影響。味とかどうとかじゃない。
喉が渇いたら流し込むだけ。

 

 

番外編<リアル・ゴールド>・・・AC/DC
もうジャンルですらない。でもAC/DC一択。
ほぼインスピレーションの産物。
一目見ればThunder Struckのリフが流れ出し、
キャップを開ければSG抱えたアンガス登場。
一口飲んだらハーフパンツスーツに着替えて
街へ繰り出そう。職質間違いなし。

 

 

 

宴は終わる気配なく、
美しいメロディーに酔いしれていた。
ふと我に返り、空になったペットボトルの山に驚愕。
お茶=カフェイン含有。
どうやら眠れぬ夜はまだまだ続きそうだ。
生理学的に。

 

 

後日、知人にこの話をしたら
「それは共感覚ならぬ狂感覚だね。」
っと一笑に伏された。
・・・・俺もそう思う。

 

 

 

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