アルベルトのアイスキャンディー

 

 

暦の上ではもう夏らしい。
名前負けはゴメンとばかりに
数日間、頑張り続ける日差しと気温。

 


アイスキャンディーを齧りながら
嫌々ながら手を着ける、持ち帰り仕事。
部下の査定、大嫌いな仕事だ。

 


評価表に並ぶは無機質な記号ABC。
機械的にペンを走らせれば10分足らずで
終わるはずがデスクに拘束され早2時間。

 


「各人の個性に配慮し評価せよ」

綺麗なお題目。
絶対評価を謳いながら相対評価に基づく査定方式。

 


矛盾だらけの宿題に夏休みの最終日を思う。
超遅速に流れる悠久の時間を揺蕩い、
思考はタイムリープ
聞くともなくとも聞こえきた、
耳障りな世間話が頭の中でリフレイン。

 

 

 

 

 

 

 

 


「潰れる業種が多くて大変だよね。
 うちらは賞与が出るだけラッキー。」


この時勢に左右されにくい業種に身を置く故か
周囲からは安堵の声が漏れ聞こえる。

 


対岸の火事の見物人が響かせる
安堵感と共に和音を奏でるは
蜜の味、他人の不幸。

 


他人に悟られぬ程度に口角を薄っすらとあげ、
遠めの悲劇を眺めながら能天気に唄っている。
その足元に火の手が近づいているのにも気付かず。

 


風が吹けば桶屋が儲かり、
蝶が飛んだらタイフーン。
不幸の蜜が呼び水となり、
自宅の瓦はFly away、あの空に。

 


社会全体の経済状況が悪くなれば
タイムラグはあれど、ほぼ全業種を対象として
何らかの負の影響が及ぶのは明白だ。

 

 

「この程度で済んで良かった。
  もっと大変な人もいるのだから。」

 

自分が被害を被れど他者との比較にて
感じることが出来る相対的な幸福感は
謙虚さの裏側に不安に満ちた表情を隠す。
その安堵感は砂上の楼閣に座していて、
ゆらりゆらりと揺れている。

 

 

「幸せを手にいれるんじゃない。
 幸せを感じる心を手にいれるんだ。」

伝説的ロッカーの名言が指している
幸せを感じる心とは相対的なそれではないはず。
他者の幸不幸によって揺らぐものではない。

 


その幸せは純粋な甘さに似ている。
あの夏休み、輝く太陽の下
口の中で溶けていったパステルカラーの氷菓の味。

 


あのアイスキャンディーは
どんな味だったのだろうか?
思い出せず、取り戻せもしない、
少なくとも今は。

 

 

 

 

 

 


忘れてはいけないことが一つある。


他者との比較により安堵感を得る人間のことを
一概に卑小な人間だと嫌悪することは出来ない。


例え、相対的な幸せに浸る為とはいえ
他人のことを気にする、気に掛ける人。

 

他者の不幸を自分の幸福の材料にはしない、
裏を返せば他人に無関心とも言える人間。


冷たい人間はどちらなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


答えが出ないアウトレットな哲学と
終わりの見えない苦手なお仕事。
足りない頭が熱暴走を起こす前にと
部下から批難されぬ様、甘めの評価を書き殴る。
真剣に向き合うことを放棄した冷たい仕打ち。

 

 

宿題をやっつけて一息。
2本目のアイスキャンディーを頬張る。
少しだけ雑味を孕んだ甘ったるさに喉が渇き、
その冷たさに頭を抱える。

 

 

 

 

 

 

 

甘ったるい評価と冷たい氷菓
今年も夏がやってくる。
どうやら暑くなりそうだ。

 

 

 

 

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