写真卒業

 

 

 

写真は嫌いだ。

正確に言えば記念写真。

 

 

 

 

 

いつの頃からだろう?

進んで撮り役を買って出て

自然と写らない様に振る舞うように。

 

 

 

「一緒に撮ろうよ!」

そんなお誘いも

ICPOから追われる身だからちょっと」

 なんて戯言にて遠慮する。

 

 

 

一方、写真の素晴らしさも解っている。

真実を切り取る報道写真に衝撃を

美しい風景写真に感銘を

心動かされる経験もしてきた。

 

 

 

色彩のみならず、香りや音までも

再生されるような一枚、

そんな力が写真にはあることも

知っている。

 

 

 

しかしながら

被写体がレンズを意識した瞬間、

何らかの装飾が加えられるのも事実だ。

 

 

 

その場に則したそれっぽい空気感、

心の内を隠すように作られた笑顔、

楽し気な雰囲気で撮られなければ

いけない様な義務感に苛まれる。

 

 

 

そういったことが面倒くさく感じる。

また、歳を重ねるごとに

作り物への興味が薄れていき、

例え、一握りでもいい、

良いものでも悪いものでもいい、

本物だけを渇望するようになる。

 

 

 

 

いつしか記念写真にとって代わり

スナップショットばかりが並ぶアルバム。

見映えが悪かろうと、こっちの方が

僕は好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

送り盆、仏壇の遺影に掌を合わす。

柔らかな表情で笑っている。

 

 

 

優しい声、手の温もり、楽しかった日々。

嫌な出来事だってあったはずなのに

思い出されるのは暖かな記憶だけ。

胸の奥に痛みと喪失感が蘇る。

 

 

 

 だから写真は嫌いなんだ。

 

 

 

 

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