25日生まれの貴方へ

あわてんぼうのサンタクロースを気遣って

忙しなくX'mas衣装に着替え出す街並み。

真っ白な綿雪が映える赤と緑のコントラスト。

1ヵ月先のパーティーに向けて早くもmake up

 

 

 

本来の意味に想いを馳せる素振りさえ見せず

楽し気に浮かれる喧騒も

誰かと過ごす夜も一人で過ごす日も変わらず

陽気な気分にさせるX'masソングも

マクレーン刑事には悪いが嫌いじゃない。

 

 

 

 

僕の所にもせっかちなサンタがやってきた。

包み紙を開けずとも中身なんてわかってる。

クリスマス商戦のスタートダッシュに負けず劣らず

デートの約束よりも秒速にて埋まるX'masの予定。

 

 

 

 

「24日、人手足りないんだ。頼むよ?」イエス

「ついでに25日も頼める、悪いね。」イエッサー!

「んじゃ今日も残業よろしく!」イエシスト!

 

最大限の肯定表現と作り笑いにて了承する。

敬礼と中指を立てることは忘れちゃいない。

 

 

 

 

 

 

書類の白にデスクマットの緑、朱肉の赤

X'masカラーは一応揃っている。

なんなら白い顔して緑のたぬきを啜りながら

血反吐も吐いてため込んだ仕事を片付けよう。

 

 

 

 

皆まで言うなとアドベンドカレンダー宜しく

記入済みの残業予定表。

OK、やってやるさ。Let's party time !

ブッシュド・ノエルとターキーサンドの

差し入れぐらいは期待していいだろう?

 

 

 

 

まあ、いいさ。ここは一つ若い連中へ

サンタ気取ってプレゼント替わりの出勤だ。 

老兵は老兵らしく年相応、

聖なる夜を厳かに迎えよう。

 

 

 

 

当日くらい、残業は止めて仕事終わりに

近所の教会へ讃美歌でも聞きに行くとするか。

漂白剤が必要なほど汚れ切った僕の心を

少しでも洗っておかなければ。

この季節、乾きにくいのは洗濯物も心も同じ。

 

 

 

 

ついでに神様の前で懺悔の一つもしておこう。

こう悪事に塗れた人生ならば、白状すべき

悪行を羅列していくだけでも定時あがりは不可能。

閻魔様にまで残業を強いるのはちと酷と言うもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪降る夜には不思議な力があるものだ。

真っ白なキャンバスに描かれるが如く

良きも悪しきも普段より鮮明な記憶

として刻まれてしまう。

 

 

 

 

あの日も雪が降っていた。

いや、そんな軽いもんじゃなかったか。

ちょっとした吹雪だったな。

ロマンスのかけらも吹き飛ばしてしまう程に。

 

 

 

 

最もムードもへったくれもあったもんじゃない。

駐車場警備のバイト、次から次へと押し寄せる

お客様の車を3か所ある駐車場の空き状況を

随時把握しながら誘導を行う。

 

 

 

 

氷点下をゆうに下回る気温と吹き付ける氷雪に

晒され続け凍え切った心身。

今なら雪女とだって愛し合える?そう錯覚する程に。

マッチ売りの少女の気持ちが少しは理解できた。

 

 

 

 

追い打ちをかけるように浴びせられる

無慈悲かつ理不尽なクレームの嵐。

心まで凍傷寸前の営業ピーク時に

その白いワゴン車はやってきた。

 

 

 

 

店舗に一番近いここ第1駐車場はすでに満車。

空きのある第2駐車場へ案内しようと

助手席の窓をノックした。

ゆっくりとパワーウインドが下がる。

 

 

 

 

 「すいません、誠に申し訳ございませんが

 こちらの駐車場は既に満車になっております。

 お手数お掛け致しますが、案内板にございます

 第2駐車場にはまだ空きがありますので

 そちらまでご足労お願いできますでしょうか?」

 

 

 

 

こちらに視線も向けず、表情一つ変えない

運転席の男性。ハンドルを握ったまま動かない。

代わりに後部座席から10歳くらいの男の子が

口を開く。

 

 

 

「もうすこ~し、 ゆっくーり

 はなしてもらえますか~。」

少々、舌足らずな感じで話しかけてくる。

 

 

 

 

年上の人間と話すような話し方ではなかった。

小ばかにされた様な印象も受けとってしまった。

どんな教育してんだよ、っつーか子供に話させて

お前は無視決め込むって何様だよ?

 

 

 

 

正直に白状するとカチンッときてしまった。

言い訳にもならないが、寒さとクレームに

心身共に疲れ切って余裕がなかったのもある。

そう思ってもお客様、ご要望にはお答えする。

表面的な接客技術には自信があったから。

 

 

 

 

そう、あくまで「表面的だけ」だったんだ。

 

 

 

 

 「こちらの駐車場は既に満車です。

 案内板にある第2駐車場には空きがあるので

 そちらまでお願いします。」

 

 

 

子供にも理解しやすいようになるべく端的に 

ゆっくりと話す。丁寧な応対とは裏腹に

語気はあまり優しいとは言えなかったかも。

むしろトゲトゲしさを孕んでいたと思う。

 

 

 

僕が話し終えると男の子はコクリと頷き、

運転席の男性の肩を叩き合図する。

振り向いた男性に向けて手話を使い内容を

伝えていた。

 

 

 

この瞬間、やっとすべてを理解し

すぐさま激しい自己嫌悪に襲われた。

 運転席の男性は耳が聞こえず、おそらく

男性の子供である男の子の話し方は

そのことに起因するものだったのだろう。

 

 

 

 

「ありがとーうございーました。」

男の子がそう言うと車は第1駐車場を出て行った。

受け取る資格のない「ありがとう」は

想像以上に重いものだった。

 

 

 

 

少し考えればわかることだったのに。

ゆっくり話すことを要求したのは

唇の動きを読むため、話しかけても

微動だにしない男性の姿からは

耳が聞こえないことは思いつくべきこと。

 

 

 

 

サインは至るところにあったというのに、

一番嫌いだったはずの「先入観」に囚われ

 接し方を見誤った。

一体僕はあの男の子にどんな表情を向けて

話していたのだろう? 

 

 

 

 

 

「雪はいい、すべてを覆い隠してくれる。

 すべてを許せる、そんな気分にさせてくれる」

 

浦澤漫画の中にこんなセリフがあった気がする。

 

自分の過ちを赦して欲しい気持ちがあったのだろう。

普段なら降り続く雪を疎ましく感じながら

帰宅していたが、この日ばかりは

少しだけ罰せられているような気がして

寒さと冷たい風に感謝しながら家路を辿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年、初雪が降るとワクワクした気持ちと

一緒にこの日の記憶も蘇ってくる。

先入観を持って人と接してはいけない、

そんな当たり前の教訓を忘れない様にと。

 

 

 

今でも同じような過ちを繰り返すことがある。

当たり前のことがどうやら僕には難しいようだ。

 

 

 

 

立川在住のお兄さんだったら

「えっ、まあ、いいんじゃないかな?」

気軽に聞き流してくれそうな懺悔だったけれど

記憶が薄れ、忘れてしまうその前に。

 

 

 

 

 

今年のX'masには優しい雪が降り、

皆が幸せに過ごせることを心より祈っている。

みんなの為にも、自分の為にも。

 

 

 

 

ただし、例外は何事にもある。

僕のストレスが天に召されるその前に

十字を切って許しを乞いな、マイ・ボス。

そんな担架が切れたら楽なんだけどね。

 

 

 

  

 

 

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