24 colors pastel

 

「僕は疲れたよ、・・なんだかとても眠いんだ・・」

 うつ伏して静かに瞳を閉じる。

窓から差し込む日没前のオレンジに包まれながら。

アントワープの大聖堂ではなく此処は会議室。

No Angels No パトラッシュ No 休出手当。

 

 

 

丸二日、まともな睡眠が取れずダウン。

眠れぬ夜を過ごしたきたのは

想い人に胸を焦がしてという訳ではない。

一番苦手かつ大嫌いな業務『部下の査定』に

頭悩ませ羊を何頭数えたことか。

 

 

 

 

 

一人会議室にて評価表とにらめっこ。

笑える要素が皆無な故、永遠に決着つかず。 

解ってる、進まぬ原因が僕自身にあることは。

 

 

 

「人を評価を出来る程、ご立派な人間かよ?」

そんな背徳感に似た自問自答が

ペンを握っては置かせ、握っては置かせ。

 

 

 

 

単純なアルファベットの羅列、

たかだが数億や数兆通りの組み合わせで

他人の評価なんて出来る訳ないだろう?

ABCで表現していいのは

ジャクソン5と恋のレッスンだけだ。

 

 

  

 

 

可愛くなくても部下は部下。

公平な視点を持って管理・指導していく

責任がある。僕の評価一つで謂れのない

不利益を被ることがあってはならない。

 

 

 

 

トラブル・メーカーの小僧だろうが、

天然系といえば聞こえはいいが

ドジでは済まない問題を連発する

雛ちゃんだろうが・・・・

例え、尻ぬぐいに奔走する毎日を

強いられる元凶である部下たちだろうが。

 

 

 

 

あれ、不思議だな?何故かイライラしてきたぞ?

気分転換、評価表の余白にラクガキ。

ボスの似顔絵完成。角とフサフサの髪はサービス。

ほんの気持ち、残業もサービスなんだからオマケだよ。

 

 

 

書類仕事は一向に進まないってのに現実逃避、

ラクガキの筆が走ること走ること。

気が付けば窓越しには青白く月灯る。

成長の足跡が見られない。無駄なことには全力投球。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓の外を眺め、落書きに興じる。

子供の頃から変わってない。

退屈な授業から空想の世界へ逃避行。

パスポートはノートと24色の色鉛筆。

 

 

 

先生や級友をデフォルメした似顔絵、

好きな歌をテーマにした1シーン、

思いつくまま、望んだ世界を描いていく。

抑圧や鬱積に満ちた日常から逃れるように。

 

 

 

暖かな気分の時には鮮やかに、

憂鬱なことがあれば穏やかな色彩にて、

感情に合わせて個性豊かな色鉛筆の助けを借りる。

優しいライトグリーン、照れ屋なインディゴブルー。

 

 

 

 

デッサンや技法にとらわれず描く線は

酷く不格好で照れくさそうに笑っている。

バランスを考えずに塗りこめた彩りは

幼さを残したまま賑やかに騒いでいる。

 

 

 

 お世辞にも上手とは言い難い落書き。

何故だか気に入ってくれる人が多かった。

ギターの絵付けを頼まれたり、

「私のにも描いて。」とノートを差し出されたり。

 

 

 

 

「なんかいいね、この絵好きだよ。」

課題が設定された絵画コンクールで

賞を頂いた時よりもその一言の方が嬉しかった。

 評価されたのが技術の稚拙ではなく

下らない発想と僕だけの自由な構図だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十人十色。その人の良さはその人特有のもの。

既存の言語やスケールなんかじゃ

伝えきれないこともたくさんあるはずだ。

”True Colors”が耳から離れない。

 

 

 

仕事というものの性質上、

設定された枠内での能力評価に

重きを置くのは理解出来る。

 

 

 

それでも理解を超えた気持ちでは

直接的に業務に反映されない良さを、

数字では表せない長所を評価して

あげたくなるのが人間ってもの。

 

 

 

 

 

例え、上層部には伝わらないことだとしても。

小憎たらしい糞ガキ揃いの部下たちでも。

・・・・やっぱり、ムカついてきたぞ。

 

 

 

 

まあ、結局のところ、

僕の指導力不足が問題の着地点。

自己評価欄にはCとDのオンパレード。

AもつけれればAC/DCの完成なのにね。

 

 

 

アントワープには天使のラッパと鐘の音。

会議室に鳴り響くはHell's Bell.

ルーベンスの絵画よりも

Back in Blackのジャケットが僕にはお似合い。

 

 

 

瞳を閉じてもアンガスのリフで目が覚める。

天使も一緒にヘッドバッキング。

ネロとパトラッシュはmosh&dive

そんなエンディングの方が僕は好き。

 

 

 

 

BGM

《いつもそこに君がいた》〜LAZY LOU's BOOGIE〜

 

 

 

  

 

 

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