キツネ Never give up




ちょっとお姉さん、注文いいかな?

この本日おススメの刺し盛り2人前と

ポテトフライ、枝豆にたこわさ。

あっ、あと揚げ出し豆腐もね。

 

 

 

飲み物は・・・生の人~?OK!

生中3つとレモンサワー1つ、

ハイボール2つと男梅の酎ハイ1つ。

ついでにこの口論の仲裁も一つ、お願いね。

 

 

 

 

 


 

 

 







 

退職した会社の元同僚達からの誘いを受け

内輪の忘年会に顔を出すことに。

嬉しい話ではないか、何年も前に退職した

というのに声を掛けてくれるだなんて。

 

 

 

 

懐かしい面々との再会は楽しみだった。

しかも、在職時に僕のことを慕ってくれてた

Yちゃんが楽しみにしてるから是非にでも、

とまで言われたからには是の一言。

 

 

 

 

積り積もった仕事を放り投げ、寒空の中、

意気揚々と会場までの道のりを闊歩する。

いざ行かん、2019最後のパーティータイム。

両の手と少しの下心をポッケに秘めて。

 

 










 

 

・・・・・それがどうしてこうなった?

最初の内は、久々の再会にお互い喜び

近況報告を肴に酔いの加速を楽しむ。

 二杯、三杯、重ねる内に暗雲が立ち込める。

 

 

 

 

定番の会社の愚痴、ここまではOK、許容範囲だ。

笑い話に昇華出来るってもんだ。 

段々と話のスケールは狭まり同じ部署のアイツが

どうとかコイツが嫌いだとか、身内の陰口大会に。

 

 

 

 

「ねっ最悪でしょ?Dさんもそう思うでしょ?」

思わねーよ、っつーか知らない。Tって誰だよ?

知ってる体で言われても、

知らないTは責められない。


 

 

 

ところでYちゃんは?遅れて来るの?

あっそうなんだ・・・お母さんが入院・・

残念がってた・・・宜しくお伝えください、と。

ハイ、ワカリマシタ。コチラカラモ ヨロシクト。

 

 

 

 

少しだけ、嘘、大いに期待し膨らんだ下心は

グラスの泡と共に消え、気の抜けたビールを

気落ちした僕が飲み干す。少しだけ苦い。

お代わりはどうって?Yちゃんの代わり?誰?





Yの不在で落ち込む僕を尻目に

Tの話題で会場は大いに盛り上がる。

T擁護派と否定派に分かれ口論にまで発展。

「Dさんはどっち?Tのせいだと思う?」

だから知らねーって言ってるだろ?




 

もう知るか!とばかり半ば自棄になり

好き勝手に振る舞うことにした。

勝手にアレコレ注文してみたり、

可愛い店員さんをナンパしてみたり。


 

 


話を振られても適当な返しで流していると

さすがに業を煮やしたのか、

幹事役の娘からキツイ口調で注意を受ける。

「チョット人の話、ちゃんと聞いてます?」





「ちゃんと聞いて、キチンと聞き流してるよ」

とは流石に言えず、とりあえずゴメンと一言。

「あたしレモンサワーって言いましたよね?

     これグレープフルーツサワーじゃない!」





・・・・そこ⁈・・・ 今、それ⁉︎





Tの話題に喰いつかないことじゃなくて?

百歩譲って店員さんをナンパしようと

懸命になっているオジさんを批難するなら

まだ、理解できる。





レモンもグレフルも似たようなもんだろ?

酸味が売りの同じ柑橘類なんだから。



「どうせ、旧交を温める止まりだったさ。

    桃色二次会なんて所詮、幻だよ。」 



Yちゃんを酸っぱい葡萄だと思い込むのに 

必死だったんだよ、こちとら。

少しぐらいグレープよりになるのは

しょうがないだろ?大目に見ろよ。





分かったよ、注文し直せばいいんだろ?

ったく色々と面倒くせーな。

ついでだ、他なんか頼むモノあるかい?

いいよ、俺が奢るから、遠慮すんな!




そして冒頭の注文シーンへと続く・・・


















それはさて置き

「ソコかよ?」というズレた焦点。

少し前のニュースを思いだす。

小学校で行われた不自由な二択問題。





あなたはトロッコに乗ってます。

分岐があり。片方には1人、片方には5人。

どちらに舵を切っても轢き殺します。

どっちに舵を切りますか?





当時は人の死を連想させ児童がトラウマに

なったことが大きく取り上げられていた。

確かに多感な時期には過ぎた題材なのかも。

でも、注目すべき論点はソコなのだろうか?





本当に批難されるべきは自由な発想を

育んであげるべき時期に、不自由な二択

みたいな与えられた枠の中で思考する

課題を課したこと自体ではなかろうか?





この手の課題は社会に出れば、

嫌でも直面しその処理能力は自然に上がる。

一方で枠に囚われない自由な発想力は

年齢を重ねる毎に悲しいかな退化していく。





自由な発想に富んだ人が増えれば

この世界はもう少しだけ皆に優しくなれて

ほんの一握りでも閉塞感が緩和されるはず。

テンプレ思考は異端という存在を作りたがる。





「皆助かるにはどうすればいいだろうか?」

こんな風に問題を変えれば良かったのに。

前向きな問いには批難を挟む余地なし。

大切にして必要なのはマクガイバー的思考。






「考えろ、考えろ、この状況を打破するんだ。」












冒頭の注文描写は脳内妄想ではなく事実。

その場に居ない人のことを陰でグチグチ

言うな!言いたいことがあれば直に言え!

そういうの嫌い、と流石にカチンときていた。




あの空気感を壊してやろう、

少しお灸を据えてやろうかと、

実際にやったみた。効果はあったみたい。

全員から謝罪と次は楽しい会にするとの約束。

店員さんはどうしていいのか解らず苦笑い。





僕からは店員さんにキチンと謝罪した。

「お仕事中、変なこと言って困らせて

     ゴメンなさい。お詫びにこの後、

     飲みにいきましょう、奢らせて。」

勿論、ナンパも忘れずに。





今度は愛想笑いで上手に躱す店員さん。

残念、タイプだったのに。

まあ、いいや。次こそは楽しく飲んでやる。

次があればの話だが。





多分、もうお声はかからないでしょう。

それでもいいさ、次はYちゃんを誘うから。

僕は葡萄を諦めない。樹の下にて長考。

マクガイバー的思考にて策を巡らし手に入れる。




例え、酸っぱい葡萄であったとしても

心酔わせるワインの原料になるかも、だろ?

もっとも、酔わせたいのはYちゃんだけど。

・・・・これだから鬼畜と呼ばれるのか。




 













断わられたらTと飲みにでも行くか。

だからTって誰だよ?

・・・チョット気になる、これは恋の始まりか?






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