ヅラのオッサンは掻く語りき        「髪は死んだ」

 

  

 

 

 店「こんな感じでどうですか?」

 

 

客「うん、いいね。」

 

 

店「では洗髪していきますね。

         こちらへどうぞ。」

 

 

 

ジャー、ワシャワシャワシャ。

 

 

 

店「痒いところはございませんかー?」

 

 

客「そうですね、心が少々。」

 

 

店「はいっ?・・心・・・ですか?」

 

 

客「そうです、心です。」

 

 

店「・・・少々、お待ち頂けますか?

         店長〜、店長〜〜!」

 

 

 

バタバタバタ

 

 

 

店「店長、かくかくしかじか・・・」

 

 

長「わかった、後は私が変わろう。

  お待たせいたしました。

  お客様、どうされましたか?」

 

 

客「いえ、痒いところを聞かれたもので

  心が少々、そう答えたまでです。」

 

 

長「そうでしたか、お任せください。

  どういった感じの痒みでしょうか?」

 

 

 

客「そうですね、

 

  『苦手なタイプの女の子がいて、

   その子も自分のことが嫌いなんだろう

   っと思っていたのに、バレンタインに

   マジなトーンでチョコを渡された時

   に感じる、どうしたらいいんだろう?』

  

   的な痒さですかね。」

 

 

 

長「それは、むず痒いですね。

 

  『えっ、それどっちなの?

   からかってんの?それともマジなの?

   いや、嬉しいは嬉しいんだけど、

            いざ、本気で答えようとしたら

   《そんなつもりじゃなかった》

             なんて言われたら、何1人で

            舞い上がってるの?って感じで

            恥ずかしい。

   かと言って本気だとしても

   マジで上手くいくの?って思っちゃうし

   あ”-、もうどうしたらいいんだー!』

 

   思春期チックな痒みですね。実に甘痒い。

   お客様にピッタリなマッサージにて

   対応させて頂きますね。」

 

 

 

客「では、お願いいたします。」

 

 

 

長「かしこまりました。

 

  『えっ、何を期待しているの?

   からかわれてるに決まってるじゃん。

   万が一、本命だとしても相性最悪よ?

   今までの関係性でわかってんじゃん。

   無難なお返し渡して終わりにしようぜ。』

 

   いかがだったでしょうか?当店自慢の

   ”ネガティブ思考マッサージ”は。」

 

 

 

客「あー、いいですね。だいぶ治まりました。

  その代わり、ちょっと痛みを感じましたね。

  あと何か大事なフラグをへし折った感が

  残りますけど、痒みは軽減されました。」

 

 

 

長「失礼いたしました。

  中々に力加減が難しいものでして。

  まだ痒みをお感じでしょうか?」

 

 

 

客「そうですね。

 

  『ほら、あんた学生の時の彼女、Kちゃん。

   つい、この間スーパーであったのよー。

   お子さんもう小学校にあがるって。

   可愛かったわよー。あんたあん時、

   何で別れちゃったのかねー。

   早く孫の顔が見たいんだけどねー。』

 

   せんべい齧りながらこうぼやかれた

   時に感じる様な痒みがちょっと。」

 

 

 

長「それはそれは痛痒いですね。

  先ほどのマッサージが効きすぎましたか。

 

  『治りかけた心の瘡蓋が

        剥がれかかって痒い』

 

   こんな感じの痛痒さですね。

  母親という生物は遠慮なくペリペリして

  くるものですからね。では、お客様、

   ”思い出昇華トリートメント”

   こちらで対応してみても宜しいですか?」

 

 

客「はい、それでお願いします。」

 

 

 長「かしこまりました。では失礼します。

 

  『あの時のことを忘れた訳じゃないが

   今となってはいい思い出だろう?

   今更、焼け木杭には火は着かないよ。

   幸せになってくれて良かったじゃないか。

   そう、思って君も前に進むんだ。』

   

   いかかでしょうか?こちらの商品には

   ”強がりダンディズム”という

   メントール成分が配合されている為、

   男性の方には特におススメなんですよ。」

 

 

客「あ~、いいですね。スーッとしますね。

  きっとメントール成分のせいですよね。

  涙もスーッと流れてくるのは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな感じのコントの台本を書きながら

「初期のラーメンズあたりに演って欲しいな。」

なんて考えている夢を見た。

 

 

 

 

目が覚めて

「夢の中でまで一体何をやってるんだ?」

という自責の念に駆られるより先に

「やっべー、オチまで考えてなかった。」

と本気で悔やんでいる自分に気が付いた時の

痒さといったら、そりゃあもう。

頭をワシャワシャワシャワシャ掻きむしる。

毛根も 悲鳴をあげる 夢の痕。

 

 

 

 

時節柄、しょうがないこと。

掻痒感のメイントリガーは乾燥。

ケアの為には潤いが何より必須となる。

お肌はもとより心にも潤いは必要だ。

 

 

 

 

僕の心にも乾燥注意報のアナウンスが。

多忙&疲労という名のシリカゲルが供給過多。

モイスチャー求め、声が掛かるがままに

飲みの誘いに足運ぶ。

 

 

 

 

この時点では露知らず。

さらなる痒みに苛まれることになるとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日もいつもと同じくお酒と会話を楽しんだ。

お開きした後、時間を空けずに届く

「ごちそうさま、ありがと、またね。」

君からのメッセージ。それも変わらない。

 

 

 

 

全文に目を通さずとも解るとばかりに

テンプレメッセージの返信を無意識に行う。

「こちらこそ、楽しかったよ。またね。」

”おやすみなさい”スタンプのオマケ付き。

 これも恒例、普段通り。

 

 


 

『人の話は最後までよく聞きなさい。』

ママンの教えはいつも正しい。

正しいだけに鬱陶しい、だからいつも聞き流す。

それが原因、大事なサインを見落とす元凶。

 

  



 

 ”〇〇がスタンプを送信しました。”

知らせがさらにスマホに届く。

一応目でも通すかとアプリを開き

よく見てみれば、先のメッセージには続きあり。

「またね」との、結びの言葉の後には

幾行か改行されて好意を綴った一文が。

 

 


 

 

故意ではないが見事にスルー。

いまさら確認も出来ずモヤモヤモヤ。

恋ではないが若干ブルー。

チャンスを棒に振ったのか?

 

 

 

 

月に1度は飲みの誘いがくるもんだから

思い当たる節がなかった訳ではない。が、

いざ会った所でそんなムードになる訳でもなし。

気の合う飲み友達、そう信じていた。

これは単なる言い訳か?僕はそれで良いわけか?

 

 

 

 

悩むこと数日の間、モヤモヤうぃんた~。

俺が三村で?お前が大竹?チミの名は?

変なオジサン調に気分を無理にでも上げなきゃ

大丈ばない、オェオェオエ。ストレス性胃炎。

 

 

 

 

悩んで頭を掻きむしる、知ってか知らずか

君から届くメッセージ。「来月はいつ暇?」

普段通りの文面で、いつも通り飲みのお誘い。

あの一文がなかったかの様に。

 

 

 

 

あ”~、もう何を考えているんだか、

どうしたらいいものなのか?

さっぱり解らん、君の本心。

痒いところに届いて欲しいのは

手なのか、はたまた、気の利いた一言か。

 

 

 

 

手を出すべきなのか?

関係性を壊さぬように上手に躱すか?

中々にして判断が難しいところだが、

なるべくご希望にソウヨウカンがえてみます。

 

 

 

 

 

 

 

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