そんなマリーに花束を

 

花が好きだ。

心が疲れ果ててしまった時、荒みきった夜には

無性に花を愛でていたくなることがある。

柄じゃないってのは重々承知しているが。

 

 

 

 

夜の街を歩けば、誰と勘違いしてるのか知らないが

客引きや黒服が指先まで揃え「お疲れ様です。」

綺麗なお辞儀を向けてくる。

そんな強面に花なんか似合わないのは知っている。

 

 

 

 

職場では年上のお姉さま方から「元気~?」

お尻を撫でられたりと逆セクハラに涙する毎日。

そんな姿を見ても彼らはお辞儀するだろうか?

いや、むしろそれを知っての「お疲れ様」かも。

 

 

 

 

そんな乙女心チックな強面にも子供時代はあった。

野山が遊び場だった幼年期を経てきたおかげか

物心ついた頃から側にあるのが当たり前だった。

四季折々の草花に囲まれる環境にて過ごす時間は

花を愛でる感性を育んでくれた。

 

 

 

 

香りや彩、神の造形したフォルム、

美という言葉がまさに相応しい。

早朝や一晩、刹那の刻にだけ魅せる一片の表情が

儚さを内包した過ぎ行く季節を想起させる。

 

 

 

  

代替の効かぬオンリー・ワン。

それ故、関係性を問わず、大切に想っている

相手には花を贈ることにしている。

 

 

 

 

相手へのメッセージを、

それとなく送れるところも粋でいい。

花言葉ってやつだ。

大切な想い程、言葉にし難いこともある。

秘めた心の善き代弁者。正に秘すれば華。

 

 

  

 

込められた気持ちを後になって

紐解いてくれる相手であれば、

贈った意味もあるってもんだ。

 

 

 

 

今なら誰に贈ろうか?とふと少考。

そうだ、マリーにしよう。

白い薔薇の花束を、ワガママ王女にプレゼント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」

 

アントワネットの決め台詞。

他者の創作話であったとか、

ケーキ(ブリオッシュ)のコストが

パンより安価だった故の言葉であるとか

言葉の真偽や本質について研究されているようだ。

 

 

 

 

そんなことはどうでもいい。

あの名セリフはマリーのものとして定着している。

それは容易に覆せるものではない。

重要なのは言葉の受け取り方について。

 

 

 

 

「ワガママ女の無知にして無神経な発言」

こんな捉え方が一般的であろう。 

王女という存在、この先入観が言葉の表層のみを

なぞる捉え方を人々に強いた結果でもある。

 

 

 

 

もし、そんな先入観を排除し言葉の真意を探る様に

受け止めてみたらどう感じるであろうか?

「物事を違う視点から眺め状況の打破を図る」

マクガイバリズムに通じる解釈も出来るのでは?

 

 

 

 

柔和な思考が出来て、他者の評価を恐れず

自分の考えを発信する勇気ある女性。

僕の目にはそう映る。誤解されたままでも

凛とした背中を見せてくれる彼女には

白い薔薇が良く似合う。

 

 

 

 

 

 

 

先入観やイメージが言葉の受け取り方を変化させる。

悲しいことではあるが往々にしてありがちだ。

同じ言葉でも発信者や受け手によって

印象や意味合いまでも変わってしまうもの。

 

 

 

 

 

マリーの言葉を借りてちょっと試してみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「パンがないならケーキを食べればいいぜよ。」

 

坂本龍馬が言えば、文明開化の風が吹く。

狭窄した視界が開けていく音が聞こえる。

広い世界へ飛び立つ時だ、菓子パンを超えて行け!

老舗パン屋は改装工事、ショーケースにケーキが並ぶ。

これがパン屋の夜明けぜよ。

 

 

 

 

 

 

「パンがないならケーキを食べればいいんだよ。」

 

アンパンマンが言えば、これは突っ込み待ち?

それとも悲壮感を孕んだ自虐?迂闊には笑えない。

どちらにせよジャムおじさんの頬に一粒の雫が零れる。

その手にはパティシエ養成校のパンフが。

 

 

 

 

 

 

「パンがないならケーキを食べるのじゃ。」

 

卑弥呼が言えば、何でもお告げに聞こえてしまう。

有無を言わせぬカリスマ性、従うほか選択肢はない。

朝のワイドショー、ラストのコーナー定番。

今日のラッキーアイテムは苺のショートケーキ。

 

 

 

 

 

 

 

「それでも・・・・・

 パンがないならケーキを食べればいいのだ・・」

 

ガリレオが今際の際にてこう呟く。

重すぎる、とてもじゃないが味わえない。

喉を通らないのはパサパしたスポンジのせい?

フォークの先の一口大が妙に重く感じる。

ニュートンより先んじて重力の存在に気付く。

 

 

 

 

 

「・・・パンがなかったらケーキを

 食べれば良かったんじゃないのか・・」

  

定年間際のベテラン刑事は執念の果てに

長年追い続けたホシのヤサまでたどり着く。

もう張り込みも1週間になる。

 

「お疲れ、交代の時間だ。」

 

「お疲れ様です。山さん、

  交代には少し早いですよ。」

 

若手のホープ、キャリア組だってのに

気さくでいい奴だ。

 

「あれ、山さん、いつものアンパンは?」

 

「売り切れだよ、おかげで甘いもんは

 この小洒落た洋菓子だけだ、

     ったく。ツイてないな。」

 

「ハッハッハ、『張り込みっていたら

 アンパンと牛乳だろ、刑事なら』

    山さんの口癖ですもんね。」

 

 「うるせい、ホシに気付かれたらどうするんだ。」

 

照れ隠しに軽く頭を小突く。

 

「ッ痛て、しょうがないなー。

 一走り俺が買ってきますよ。

 でも医者からも言われてるでしょ?

 少しは甘いもん控えましょうね。今日だけですよ。」

 

そう言って飛び出した後姿をあの時、止めておけば。

お前には白い花と一緒に横たわるなんて似合わない。

純白のドレスに身を包んだ花嫁の右側に凛として立つ。

そうだろう、目を開けるんだ・・・馬鹿野郎・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・僕は一体何を書いているのだ?

 

 

 

 

それはさておき、

同じ言葉でもこうもイメージが変わるものか?

十分にご理解頂けたと思う。

 

 

 

 

同じじゃねーだろう?そんな突っ込みは 

直接言葉にしないで別の方法で伝えて欲しい。

そんな花言葉があればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスマスまで寝かさないわよ。」

ウィンク交えた笑顔にてデスクの上に

放られるは未処理ファイルの束、残業確定。

視線合わさず、乾いた笑いでさらりと流す。

 

 

 

 

意味深ジョークかブラックジョークか?

どっちの意味で捕るべきか、悩むまでもない。

なぜなら、双方、悪夢にゃ変わりないから。

これが本当の"Nightmare before Christmas"

 

 

 

 

 

僕のもとには哀れみの表情を湛え、

花キューピットが舞い降りる。

クリスマス・ローズの白い花束を抱えながら。

 

 

 

 

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