28か十割か、はたまた鬼か

光陰矢の如しとはよく言ったもので

桜の花を眺め、物思いに耽ったのが昨日のこと

のように思え、気が付けば今年も残すところ

あと一月を残すところとあいなりました。

 

 

 

師走の言葉どおり、仕事納めやら来年の準備など

帆走されている世間様。

各ご家庭に置かれましても年の瀬の雑務に

追われる日々をお過ごしのことと思います。

 

 

 

まあ、そんな忙しなさも大晦日かや正月の

団欒のひと時を思えば何のこともないでしょう。

炬燵にミカン、紅白みながら除夜の鐘を待つ。

 

 

 

 

「今年はどんな年だった?」

「来年は良い年であるといいね。」

なんて暖かな時間を年越しそばなんぞ啜りながら

笑顔で新年を待つことでしょう。

 

 

 

 

さて、そんな年末を目前にしたお茶の間にて

ちょっとした揉め事がありまして。

ホント些細なことなんですよ。年越しそばを

二八か十割か、どっちにするかなんてね。

 

 

 

 

人の好みは色々あるとはいえ、

何もそんなこだわりを全面出して言い争って

せっかくの大晦日を険悪な雰囲気で過ごす、

まったくもって愚かなことであります。

 

 

 

 

まあ、この「割合」ってものは少々厄介なもので

どんな場面においても火種になっちまうもの。

遺産相続では親族間で骨肉の争い、

ケーキの上のサンタを巡って兄弟喧嘩。

 

 

 

 

別れの場面でも然り。

愛し合った二人が共に築きあげてきたもの、

どっちがどれだけ所有する権利があるだとか

思わず目を覆いたくもなるもので。

 

 

 

 

”Money changes everything”

Cindy姐さんも随分と酷なことを歌いなさる

とは思ってましたが、地獄の沙汰も金次第とは

よく言ったもの。金が絡めば愛も憎しみへと

変わってしまうものなのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・これで全部かな。」

 

「・・・そうね、

 まだこのマンションの所有権が残っているわ。」

 

「わかった、明日、知り合いの不動産屋にあたるよ。

 売却価格が分かり次第、5割を口座に振り込む。」

 

「・・・・・。」

 

「5割じゃ不満なのかい?

 最初に取り決めしたじゃないか。

 慰謝料替わりにローンの残分は僕が引き受ける、

 他の共有財産に関しては半分づつ。」

 

「・・・そうじゃないわ。

 いざ結婚前のこの時期にいきなり

 ”他に好きな人が出来た、別れてくれ”

 って何なのよ、無神経にも程があるわ。

 それなのにお金の話ばかり。

 他に話し合うべきことがあるとは思わないの?

 ・・・ここまで冷酷な人だとは思わなかったわ。

 もう、あなたのことを何一つ信じれないのよ。」

 

「・・・・すまない。

 僕から言うことはもう何もないよ。

 不満があるなら弁護士を立ててくれても

 構わない。後のことはなるべく事務的に

 済ませた方がよさそうだ。」

 

 「・・・最っ低。出てってよ。

 もう、顔も見たくないわ。」

 

 

 

 

 

浮気男の開き直り、醜いったらありゃしない。

女性の言い分、尤もであります。

随分と唐突な別れの場面と男の言い分。

まあ、お別れってのは不意に来るってのが

常なのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

「って感じで呼び出された訳だな、俺は。

 久しぶりの再会だってのに随分な扱いだな。」

 

「・・・すまない。

 他に本音をぶつけられる存在なんていないんだ。

 親友のお前以外には。」

 

「まあ、一つ貸しにしとくよ。

 それとここの勘定はお前持ちということで

 一つ宜しく。マスター、バーボン・ロックで。」

 

「・・・しょうがなかったんだよな。

 あいつはまだ若い。すぐに良い人に

 巡り合えるさ。これで良かったんだ。」

 

「・・・・・・まあ、なんだ。

 ご馳走になってる手前、非常に言いにくいんだが

 はっきり言った方がお前の為、・・だよな。

 アホだよお前は、アホ一確。」

 

「じゃあどうすればよかったんだよ?

 明日にでもどうなるかわからないこの体、

 例え、命が助かったとしても

 元の様な生活を保障してやることなんて

 出来やしない、それどころかアイツの重荷に

 なってしまうんだぞ?

 ・・・・・本当のことを話せばアイツのことだ、

 絶対に別れるなんて言い出せなくなる。

 アイツの幸せを思えば、こうするのが一番なんだ!」

 

「まず第一にさっさと病院に行って

 治療を続けるんだ。飲んだくれてる場合じゃない。

 もっとも馬鹿につける薬までは処方して

 もらえないだろうがな。

 ・・・嫌な男演じて相手を想う?何様気取りだ。

 いいか、お前の愚かしさを教えてやる。

 お前は一人よがりの先走った行動で

 二人の思い出まで最悪なものに変えた。

 相手を想うってのは相手の思いに耳を傾け、

 その思いを尊重してやることじゃないのか?

 お前のそばに寄り添うのも、去っていくのも

 あの子が決めることだ、お前じゃない。

 後で、事実を知った時、あの子がどう思うか

 考えたことがあるのか?後悔が残るだろうね。

 自分で決めたことならともかく、

 一方的なお別れだ。心に刺さったトゲが抜ける

 のはいつの日になることやら。」

 

 「・・・マスター、俺にもバーボンをロックで。」

 

「違うだろ、今、お前が飲むべきなのは。

 マスター、モスコミュールをこいつに。

 そいつを飲み終えたらすぐに彼女のもとへ帰るんだ。

 もう、手遅れかもしれなくてもだ。」

 

「・・・・すまない。ありがとう。

 この借りは次あった時に必ず返す!」

 

 

 

 

一息に飲み干すと男は店を走り去っていく。

 

 

 

 

「・・・・次か。」

 

誰にも聞かれぬよう呟かれた独り言は

グラスを踊るロックアイスの音色に隠れ

余計な残響も残さぬままに消えていく。

 

「結局、勘定もコッチ持ちか。

 ホントどうしようもない奴だな。

 マスター、済まなかったね。

 耳汚しな会話聞かせてしまって。

 お詫びに一杯やってくれ。」

 

「お気になさらず。心の内を吐き出せる、

 それがBarというところですから。

 ご友人を思っての叱咤、心に響きました。」

 

「そんな大層なものではないよ。

 ・・・・ただの同族嫌悪さ。

 さて、俺も最後に一杯貰おうかな。

 マスター、ギムレットを。」

 

「そのご注文はお受けしかねます。

 代わりにコチラをどうぞ、私の奢りです。

 季節外れではございますが、ご勘弁を。」

 

「・・・フローズン・ダイキリ。どうしてこれを?」

 

「職業柄、とでも言いましょうか。

 邪魔にならぬよう良く見聞きせよ

 そして、最良の1杯をお出しせよ、

 わが師からの教えでして。

 まだ、未熟者故、こんなありふれた1杯しか

 お出し出来ないのは心苦しいですが、

 せめてもの思いを込めて、

 誰よりも海を愛した老人の言葉を

 添えさせて頂きました。」

 

「・・・ありがとう。あいつは馬鹿だから

 気が付かなかっただろうが・・・・

 嘘をつくのも、何も言わぬのも

 結局、同じ大馬鹿野郎ってことか。」

 

「どうかご自愛下さい。

 次の再会もこの店で。お待ちしております。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉足らずや優しい嘘も

時には人を傷つけるというもの。

何もそれ自体が悪いことってわけじゃあ

ございません。大事なのは匙加減。

 

 

 

 

相手と場合をよく考え

時に小出しに、時に大盤振る舞い。

状況に応じた黄金比を模索するのが肝要かと。 

 事に於いて男女の関係においては言わずもがな。

 

 

 

 

最後にお別れのご挨拶替わりに一句吟じて

終わりとさせて頂きます。

 

 

年越しの 「そばに居るよ」 の一言が

言える言えずで 鬼も戸惑ふ

 

 

お後が宜しいようで。

 

 

 

 

 

 

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