Not if I see you first

 

 

 

 


神様までもエコ思考なのかは知らないが
温度調節を間違ったとしか思えぬ気温に
気持ちも食欲もダウン。

 


仕事でのストレスが限界値を疾うに超えた
溢れんばかりの心のグラスに負けじとばかりに
並々と注ぐ黄金色の友達、空きっ腹にビール。

 


何時までたっても沸点に至らぬやる気と食欲。
ツマミ代わりに惰性で流すは座右の名画。
暗唱できるほど繰り返し聞いたはずの名台詞が
今夜は何故だか妙に響く。

 


「書くことに困ったら俺たちのことを書けよ。」

 

 

 

 

 

 

 

いつだってスティーブン・キングは正しい。
折に触れて観る「スタンド・バイ・ミー
もう何度目の鑑賞になるかなんて
2桁を越えた時点で数えるのは止めた。

 


ある時はノスタルジックな感傷を、
ある時は変わることない安らぎと温かさを。
懐かしい記憶と新たなる気付き、
触れる度に大切な何かを思い出させてくれる。

 


今宵、オールディーズな青春映画が
脳裏に映し出した一場面はとある雪の日、
古い友の懐かしい思い出と何気ない一言。

 


永遠に受け継がれていく名作とは異なり
人の記憶は時の流れと共に風化していく。
浮かんだ思い出と想いは記しておくべきかと、
ガラに合わぬが感傷的な綴りを試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


19歳の初春の頃、どうやって連絡が来たのかも
覚えてはいないが中学校時代の友人から
突然、遊びに行こうとの誘いがあった。

 


同じクラスの女の子。
珍しいくらい雰囲気の良いクラスの中でも
特別に仲の良かった班で一緒だった子だった。

 


よくある話ではあるが
あれだけ仲が良かったのにも関わらず、
卒業してから約4年の間、それぞれの青春を謳歌
お互い連絡を取り合うことはなかった。

 


友人関係をバーの客に例えた
キングの描写そのものだった。

 


ふと思いたち、何の気なしに
疎遠になっていた馴染みの店に顔でも出してみるか?
そんなノリだったのかも知れない。

 


ともかく4月からは地元を離れることが
決まっていた僕は二つ返事でOKしていた。
懐かしさと古巣への決別の儀式の一環として、
再会を楽しみにしていた。

 


待ち合わせの日が雪だったのは覚えている。
地元では有名な待ち合わせスポット、
駅の入り口付近にて旧友を待っていた。

 

「おーい、D!久しぶり~、待った?」

 

声のする方へ目を向けると
カジュアル&ガーリーな服装、
少し背伸びした感じのメイク、そして金髪。
純朴そうだった面影は何処へやら、
擦れた印象を受ける外見にショックを受けた。

 


一瞬出かかった「どちらさん?」
の言葉を飲み込み「おー、元気だったかM?」
動揺を隠しきれずにぎこちなく返す。

 

 

少しだけ苦笑いしながら
「変わったと思ったろ?」
ズバリ直球を投げてくるものだから
「ハイ・・・」と本音を返さざる得なかった。

 


少しだけお茶を楽しみ、
カラオケで2,3曲歌い終える頃には
ぎこちなさも消え、当時の空気感を思い出し、
お互いの高校生活や近況報告に会話が弾んだ。
そして突然の再会と変貌の理由を知ることになった。

 

 

 

 

 

 


スポーツ推薦で入った高校では実績を残し
実業団入りを決めたがチーム内のイジメに
耐えかね1年を経たずして辞めてしまったこと、
それからしばらくの間は引きこもりっていたこと。
少し荒んだ生活を送っていたが
これじゃイカンと思い、立て直してきたこと。

 


風の噂で僕が地元を離れることを知り、
いい機会だと思い再会の連絡をしたこと。
一番楽しかった時代の友人、
あの頃の空気感を共有出来る友人と過ごし、
あの頃の活力を思い出すいい機会だと。

 


少しだけ寂しげに、話しづらそうに
ポツリポツリと言葉を紡いでいることに気付くと
「暗い話はヤメヤメ!楽しい話しよ?彼女は?」
と明るく話題を変えてきた、あの頃のままだった。

 

 

“背伸びした”と感じたのは間違っていなかった。
外見は変わっていても屈託のない笑顔で話す
彼女は明るく優しい15歳の女の子のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「思い出は優しいから甘えちゃダメなの!」
FF10にてリュックはそう言っている。
とても正しい言葉だと感じる。

 


しかし、ずっとそこに足を止めるのではなく
次の一歩を羽ばたく為の止まり木として
大切な思い出に浸り明日への活力を得るのは
誰にだって必要なことだ。

 


Mにとっては一番自分らしく過ごせた時代の
友人と過ごす一時、
僕にとっては懐かしい友を思い出させる
名画に浸る時間。

 


どちらも明日を生き抜く為に欠かせない
一時のタイムリープ
掛け替えのない時代、取り戻せない感情への。

 


あの時のMが拠り所としてくれた思い出が
15歳の頃、あの教室、あのメンバーであったことが
とても嬉しかった。

 


「12歳の頃の様な友達を二度と持つことはない」
やっぱりキングは正しかった。
僕らの場合は12歳ではなく15歳だったけれど。

 


店を出ると名残り雪が舞い始めていた。
淡く掌で溶けていく雪片と二人見上げた夜空
とある初春の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数か月後、新生活にも慣れ始めた僕の元に
Mから一通の手紙が届いた。
他愛もない近況報告であったが踊る文字から
元気でやっていること、変わらぬ笑顔が浮かんできた。

 


数度、手紙のやり取りの後は自然に連絡は途絶え、
音信普通となってしまった。それでいいのだと思う。
あの時、一瞬でもMの止まり木になれたのであれば。

 

  


手紙の結びは決まってこうだった。
「P.S ご飯はしっかり食べましょう!」
何気ない一言が、今では僕の止まり木になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 


言う通りにしっかり食べているせいで
しっかりメタボになってしまった訳だから
今夜ぐらいは酔いに任せてご飯はお休み、
いいだろう?M?

 

 

 

 

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