ニッチ様美寄りの死者

 

 

 


シャララッラー シャララッラーラ
数年前のある日のこと。
鼻歌交じりで国道を走らせていた。
ツレと一緒にドライブへ。

 


週末前のアフター5、せっかくだから遠出して
知らない街でご当地飯でも食べようと隣県まで
足を延ばすことにした。

 

「どんな店があるだろうね?」「何系にする?」

 

目的としてたのは個人が経営しているような
小さなレストラン、もしくは料理屋。
味もそうだが店の雰囲気もその地にしかない、
そんな店がこの夜のターゲット。

 


車窓から国道沿いにそれらしい店がないか眺めながら
街中を散策する。・・・・1時間、2時間と。

 

 

小さな街であるからこそ、期待していたのに
目に入るのは全国展開のチェーン店ばかり。
もっと隈なく探せば見つけられたのだろうが
空腹には勝てずギブ。適当なファミレスで手打ち。

 

 

 

分かってはいるのだ。
雇用や需要といった観点から大資本企業の参入により、
個人経営の店が淘汰されていく傾向にあることは。
確立されたブランド力や一定の需要を獲得することが
難しい個は生存競争に弱い、腐ってもゴリアテは強力な存在だ。

 

 


生き残る方法は大資本が目を付けない
ニッチな分野に舵を取ることだが、
強欲な巨人はその隙間にも指を入れ始める。
残された椅子に座れる個はそう多くはない。

 

 


やっとこさ腰を降ろした小さな椅子は
寂れていてひどく不安定。
長く座り続けれられるだけの体力がなければ
そっと席を立つしかない。

 

 

隙間産業において得られる糧は少ない、大抵の場合そうだ。
多くの利益が出ると分かれば追従者によりシェアが奪われる。
それゆえ、ニッチな存在の寿命は言わずもがな。
そんな存在に、僕は惹かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

ネットの世界においても同様の流れを見てきた。
黎明期のカオスじみたネット空間は非常に魅力的だった。
手探りのまま、新たな世界を創造するんだ、
そんな先駆者達の気概が感じられるホームページ。
時間を忘れ、一晩中廻り続けることもあった。

 

 

いつ頃からか検索のトップには商用ページが並び
個人のページが影を潜めるようになっていた。
どんなワードで検索しても同じ、
まるであの日見た国道沿いの景色と同じだった。

 

 

郊外型の大型店だらけ、
どの街にいっても同じ表情を浮かべて迎えてくれる。
小さな遠出をする機会も少なくなり、
ネットサーフィンの時間も次第に減っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


どんな分野においても
ニッチな存在に惹かれてしまう。
オリジナリティを貫く誇り高い姿勢に敬意を感じるのか?
消えゆく儚さに美を見出しているのか?
同類の匂いを鼻孔を擽るのか?
本当の理由はわからない。

 

 

去りゆく存在に心奪われる代償として
いくつもの別離を経験しなければならない。
それは自身の一部が消えていく感覚に酷似し、
近い未来の己を重ね見て、そして見送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


好きなバンドはいつしか解散、
馴染みの店にはCloseの看板。
こうも心奪われた存在が消えていく様を
まざまざと見せつけられると
貧乏神、死神?自分の存在が厄神に思えてしまう。
いつしか愛することに二の足を踏むようになっていた。

 

 


今の僕に踏み出す勇気を与えられるのは
ハニー、貴方しかいない。
黙って消えていったその日から、
まるで生きる屍のように、ただただ時間を喰い潰す毎日。

 

 

 

君を想わない日はない。
君の香り、感触、味わい、忘れられないんだ。
もう一度だけ、僕の前にその姿を見せてくれ。
か弱くも美しい存在を愛する勇気を再びこの手に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローソンのハニーマスタードプレッツェル
再発売を心より願う。

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村